ワクチンの副反応が残っててつらかったけど出勤して、仕事で母校（高校）の近くに行く用事があったので、思い切ってアポなし訪問してみたら、事務の人が温情で入れてくれて、会いたかった先生を呼んできてくれた。私の人生に一番大きな影響を与えた先生。

世界史の先生で、別に担任でもなかったし、授業も1度くらいしか受けていなかったけど、フランクで話しやすくて、くだらない質問にもいつもちゃんと答えてくれるから、大好きな先生だった。

卒業する直前に、その先生から一冊の本をもらった。古代ギリシャの、神話と歴史を漫画風に解説した本。その1冊が私のその後を決めたといっても過言ではない。もともと興味があったけど、そこから更に深めてしまった結果、私はそっちのジャンルで大学院まで行ってしまった。

前回先生に会ったときはまだ院生で、今ギリシャ神話で院生やってる、って言ったら「あ～～やらかしたな！お前はやらかすと思ってたよ！」と言われたのをよく覚えてる。先生も覚えていてくれてた。本をくれたことも、7年前にそんな会話をしたことも。

私は筆不精の出不精だから、7年前に学園祭に行ったとき以来先生とは一度も連絡も取っていなくて、そういうとこお前はドライだよなって笑われたけど、実を言うとコミュ障だからなんて連絡したらいいのかわからないだけだった。言わなかったけど。コロナが落ち着いたら飲みに行こう、この仕事してて一番楽しいのは、立派に巣立っていった卒業生と飲むことなんだから、って言ってくれた。

今は教育の業界で広報の部署にいる、って、たまたま持ってた名刺を渡したら、来年度からだからほんとは内緒なんだけど、まだ誰にも渡してないんだけど…って、「入試広報主任」の名刺をくれた。自分の影響で一度は「やらかした」生徒が、同じ教育の現場で、同じ広報の仕事をしてるって嬉しいな、と言って、昔と変わらない顔で笑ってくれた。

高校の授業の話とかを聞いているうちに、そういえば、と思って「最近、高校とか大学の授業を今更もう一度受けたいと思うことがある」という話をした。大学の時あの授業を取っておけばよかった、って後悔してるものがある、と。もう一度勉強したくても、社会人をしながら私が求めてる水準の学びを得る方法がなかなか見つからない、と。何をやりたいの？って聞かれて、今はシェイクスピアをやりたい、大学で授業を、あったのに取らなかったことを、すごく後悔してる、って言ったら、笑ったりしないで「シェイクスピア！いいね！」と言ってくれるこの先生がやっぱり大好きだと思った。

「まだ若いんだし、事務なんて経験さえあれば中途採用いくらでもあるから、ある程度資金と先の見通しがあるならまた学び直したっていいと思うよ」って言われて目から鱗が落ちた。仕事辞めたいって言ってたけど、その先に「学び直す」っていう選択肢を全く考えてなかったから。
あと先生には言い忘れたけどヨーロッパの服飾史と、大体中世くらいのヨーロッパの歴史も体系的に勉強したい。時間がいくらあっても足りない、人生短すぎ。

学ぶ内容が社会の役に立つかどうかなんて考える必要ない、やりたいことをやったらいい、と背中を押してくれた先生がいたから、（そしてそれを認めてくれる親がいて、まさに一番やりたかったことを教えてる先生のいる大学に入学したから、）今の私があるんだと思う。ギリシャ神話勉強して何の役に立つんだよと言われるとマジで何の役にも立たない。社会的には。私が楽しいだけ。でも、それでいいんだと、私が高校生の時も、今も、変わらず笑って言ってくれることが嬉しかった。

先生がこれから世界史の授業を通して教えたいことも語ってくれた。歴史を教えることで、遠い国の人、遠い昔の時代の人、そういう遠く離れた人に対するエンパシーを感じることができたら、戦争は起こらない。それを、学年のうち30人くらいが分かってくれたら、10年で300人。周りの人も巻き込めば3千人、3万人……そうやって、世界はいつか平和になる。私が高校生だったころ、先生がまだ、今の私とそう変わらない歳だったころと同じ、楽しそうな顔で語ってくれる先生がとても眩しかった。